大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㊼ 原点回帰。足について考えてみました

あけましておめでとうございます。
デケイド(decade)という言葉をご存じでしょうか。「十年紀」と訳されますが、年の進みを10年で区切った一区切りを意味します。
今年2021年は、21世紀三つ目のデケイドの最初の年ということになります。
21世紀が始まった時、昭和生まれとしては、未来が現実になるといったような心持ちでときめいた記憶があります。でも、21世紀末は20世紀末とは大きく変わっていることは間違いありませんが、日々の変化は、100年分の1日。そう劇的に変わるものではありません。それでも三つ目のデケイドとなれば、変わった!とはっきりと感じられるようになるはず。しかも、変わる大きな要素も降ってきました。新型コロナです。感染が世界的に広がった当初から“ニューノーマル”ということが言われています。
そこで、三つ目のデケイドの始まりに、原点に帰ってみてはどうでしょうか。
人の原点と言えば、人を人たらしめている直立二足歩行。つまり、足。今回は、足をおさらいしてみたいと思います。

●あのレオナルド・ダ・ヴィンチの名言
「人間の足は、工学の傑作であり、最高の芸術作品である」。
この名言を遺したのは、あのレオナルド・ダ・ヴィンチです。
足のどこが、天才にそう言わせたのでしょうか。間違いなく足の裏の窪み、土踏まずでしょう。
窪みは、骨が弓形、つまりはアーチ型に並んでいることによるものです。そのアーチは、三つあります。いちばん長くてクッキリした内側縦アーチ、次に外側縦アーチ、そして指の付け根辺りを横に走る横アーチです。このことによって、土踏まずは三つのアーチから成るドーム構造とも言われます。
アーチも、ドームも、建築に見られる構造です。アーチは橋によく見られ、それだけで重さに耐えられる構造であることが分かります。屋根に見られるドームは、自然界で最も強い構造とされているそうで、荷重を効率的に分散させてくれます。
またアーチは、足に内蔵されたバネとも言われます。バネは、力を加えるとたわんで、負荷を受け止め、負荷がなくなると、ポンと跳ね上がり、元に戻ります。
足は、全体重を受け止め、同時に掛かった重さの分だけ地面から押し返され、それに耐え、かつさっさっさと歩いています。
足に土踏まずがなかったら、どうなってしまうのか。空恐ろしくさえなります。

土踏まずの構造(拙著『子供靴はこんなに怖い』より)

●歩くことによって、足は完成された器官になる
土踏まずが未発達な子どもが増えているとは、よく耳にすることです。
でも、赤ちゃんの時から骨のアーチ構造はあります。未発達とは、それが前述のような機能を十分に果たせるように発達していないのです。
では、発達させるには、どうしたらいいのでしょう。答えは、運動すること、つまり歩くことです。未熟な土踏まずは、歩くことで発達するのに、歩かないから発達しないのです。
そして歩くには、靴が必要です。
裸足で足を使うことの効能は認めますが、どんな時にも裸足は、現実的ではありません。特に自然の土が少なくなり、多くがアスファルトやコンクリートに被われている現代の環境では、未熟さを守りつつ歩くために、ただの靴ではなく、良い靴が必須です。
我田引水の帰結ですが、直立二足歩行を可能にしている足は偉大な器官であり、その足は未熟なまま生まれ、歩くことによって、完成された器官へと成長していく。だからこそ、靴が大切。
時々、考えてみる価値のあることではないでしょうか。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。