大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑦ 「見て、聞いた」ヨーロッパの子供靴意識

日本人が靴を履き始めたのは、明治維新以降。日常履きとして定着という観点で見ると、第二次世界大戦後。つまり、日本人にとっての靴は、たかだか70年余りの歴史しかない。欧米と大きく異なる。この歴史の違いは、子供靴に表れているのか。これは、誰もが興味のあるところだと思う。

In France
1万円の子供靴は、当たり前!

1980年代後半、東京で開催されたヨーロッパ諸国が出展した展示会でのこと。フランスの出展者のブースで、子供靴を見付けた。革製でスニーカーのようなデザイン。オーソドックスだが、しっかりした顔付きの靴。値段を見ると、現地での小売価格は1万円台の様子。高い!ブースに立っていたフランス人に聞いてみた。
「良い子供靴の価格が大人の靴と変わらないのは、特別なことではありません。フランスの親たちは、普通のこととして受け入れていますよ」。

In Spain
3歳までは、良い靴を履かせます。

2000年頃のこと、スペインに取材に行った。スペイン貿易庁の若い女性がアテンドしてくれたが、6歳と2歳の子供がいるというので聞いてみた。
「足がしっかりする3歳頃までは、靴はとっても大切。だから高いけど、足のことを考えて、7000〜8000ペセタ(当時のレートで5000円前後)の靴を履かせています」。

In England
百貨店子供靴売場でフィッティング・サービス

ロンドンのスローン・スクエアに「ピーター・ジョーンズ」という百貨店がある。ハロッズやセルフリッジのように有名ではないが、中流階級向け百貨店として定着しており、スローン・スクエア以外は、「ジョン・ルイス」という店名で展開している。
その子供靴売場でのこと、売場の隅に小さな箱型の機械があり、お客が番号札のようなものを出して、店員に持って行っている。なんだろう???
しばらく観察していて分かった!
番号札は、フィッティングの順番。専門のフィッターがいて、足を測り、ちゃんとフィッティングして販売しているのだ。
今でもやっているのかと、ホームページをチェックしてみたら、「SHOE FITTING SERVICE」というコンテンツがあり、その下に「Book Appointment」というボタン。ホームページからフィッティング・サービスの予約ができるのだ。さらに進化していた。

やっぱり、違う!
ただし、親たちのすべてが子供の成長にとって靴が大きな役割を果たすことを分かっている訳ではない。日本ではデザートブーツで知られるクラークスは、歴史的に良い子供靴を製造している。イギリスの消費者の信頼は厚く、子供靴におけるシェアは50%と聞いたことがあるが、このシェアには「可処分所得の高い層」という条件が付いていた。お金持ちは分かっているということではなく、要するに分かっている人は分かっており、ヨーロッパでは、その比率が高いということ。その違いが、選ぶ靴、そして子供の足の健康に大きな影響を及ぼすということではないのか。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。