大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㊴ 映画から教わった“stand in his shoes”の子供靴にとっての意味

「アラバマ物語」という映画をご存じでしょうか。
製作は、1962年。主演のグレゴリー・ペックがアカデミー主演男優賞を受賞した、古い映画です。
時代は、1930年代。舞台は、アラバマ州の架空の田舎町メイカム。主人公の弁護士アティカス・フィンチは、妻を亡くし、黒人の家政婦に助けてもらいながら男手一つで二人の子供を育てています。
その日常の物語とも言えますが、アティカスが弁護を引き受けた、婦女暴行事件の黒人容疑者の裁判を核に、父と子の日々が展開されます。
そもそも原作は、ピューリッツァ賞を受賞したハーパー・リーの自伝的小説『To Kill a Mockingbird』。映画の原題も同じですが、映画の中でその意味が語られます。
“mockingbird”は、和名をマネシツグミという鳥のことです。
アティカスが、子供達に話します。
「自分は銃の扱いを父親から教わったが、マネシツグミは、庭や畑を荒らすことはなく、美しい声で鳴くだけ。そういう無害な鳥は、撃ってはいけないと言われた」。
この話は、映画の結末に結びついて行くのですが、アティカスの正義感と強い信念に裏打ちされた物静かな語り口と態度、素直で物怖じしない子供達に、心が澄み、暖かくなりました。

●字幕に流れた「他人の靴を履いてみないと…」
深夜にWOWOWで観ていたのですが、
「他人の靴を履いて歩いてみないと…」
こう字幕に流れました。
靴が出て来ては、放っておけません。英語でなんと言っているのかを知りたくなり、すぐにアマゾンでDVDをポチりました。
いざ!ところが、ここと記憶していた場面に来ても、靴の“く”の字も出て来ません。ここではなかったのか…。進めて行くと、ラストシーンに近くなって“shoes”と聞き取れる箇所がありました。ここだったのか!
しかし、字幕に靴の字はありません。放送やDVDの発売元によって字幕が違うことを初めて知りました。
英語字幕に切り替えてみると、次のように出て来ました。
you never really knew a man until you stood in his shoes and walked around in them.
直訳すると、「彼の靴を履いて立ち、歩き回ってみないと、その人のことは本当には分からない」といった感じになるでしょうか。調べてみると、“〜stand in someone's shoes”“walk a mile in my shoes”は、いずれも「相手の立場に立つ」という慣用句と出て来ました。
WOWOWの放送は敢えて直訳的に、購入したDVDは慣用句に則った字幕だったのでしょう。
間違って人の靴に足を入れてしまうと、その瞬間に自分の靴ではないことが分かります。靴は、それほど人によって違います。靴を持ち出して「相手の立場に立つ」を表現するとは、まさに言い得て妙です。

●自分では確かめられない子供靴のフィッティング
でも子供靴は、親が履いて、どんなフィッティングなのかを確かめることはできません。
15㎝〜20㎝、もしくは21㎝レンジには、ハーフサイズ(「〜.5」サイズ)がないのが一般的だった30年余り前、15㎝が小さくなった子が16㎝を履いた時の実際の大きさとの誤差率を出したことがあります。
実際の足長が152㎜だとすると、これに対して160㎜は、約1.05。これを実際の足長が230㎜に当てはめると「241.5㎜」。つまり2サイズ以上大きな靴を履いていることになります。
あなたは2サイズも大きな靴、つまり23㎝なのに24㎝の靴を履いて、普通に歩けるか、ましてや走れるでしょうか。
すぐに大きくなるからと大きめを履かせると、これと同じような状況が起こっているのです。
小さな子どもにフィット具合を聞いても、答えが返ってくるはずもなく、親も履いてみることはできないとなれば、子供の身になってみるしかありません。
大きめを履かすことに限らず、自分が履いて確かめることができない子供靴選びは、まさに“stand in his shoes”なのではないでしょうか。

購入したDVD

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴辞典」(シューフィル刊)がある。

靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴辞典」(シューフィル刊)がある。