大谷知子

子供の足と靴のこと

連載77 靴が描かれていない、五味太郎さんの絵本『履きごこちのよい靴』

点けっぱなしのテレビをふと見た。五味太郎さんだ!
ご存じですよね。有名な絵本作家。『みんなうんち』『きんぎょがにげた』『さる・るるる』などなどなど。400冊以上、描かれているそうです。何か一冊は、お子さんのために選んだことがあるのではないでしょうか。
靴についての作品もあります。
『くつ くつ みつけた』です。但し、五味太郎さんが描かれたものではありません。作者は、トミー・ウンゲラー。フランス人の児童文学作家であり、イラストレーター。児童文学の優れた作品に贈られ、“小さなノーベル賞”と言われる国際アンデルセン賞画家賞を受賞しています。
五味さんは、翻訳です。
でも、文章はというと、最初のページの「くつ くつ あれ、ぼくのくつ?」。それと最後のページの「くつ くつ ちゃんとありました。」。これだけです。
間に挟まれて見開きで展開される絵は、まさに「くつ くつ みつけた」。絵の中に靴を見つけると、“あった!”、“ここに隠れていたのか⁈”と、笑顔がはじけたり、ニヤッとしたり。月並みな言い方ですが、ユーモアとウィットに富んでいます。
五味さんが、自分の名を連ね出版したのは、ここにシンパシーを感じたからではないでしょうか。

画像 『くつ くつ みつけた』トミー・ウンゲラー作/五味太郎訳
(架空社、1987年刊)

画像くつは、どこにあるでしょう?

●違和感の中に、きみの足がある
五味さんの靴の絵本と言えば、この『くつ くつ みつけた』ですが、他にもあるかもと調べてみました。ありました!
『履きごこちのよい靴』。ズバリではないですか!
発行は、1989年。もう絶版です。こんな時は、ググるに限ります。見つかりました!
数日後、届いた『履きごこちのよい靴』は、とてもきれいな本でした。どこに靴が登場するんだろう。
でも、靴の絵は、一つも見つかりませんでした。
『履きごこちのよい靴』は、五味さんの絵本とは、体裁が異なります。絵本は、ほとんど文字がありません。しかし、『履きごこちのよい靴』は、左ページは文章、右ページが絵。見開き一つで一つのテーマが展開され、テーマによっては、左ページが文字で埋まっています。そして、『五味太郎 旅の絵本』という副題がついています。
靴という言葉は、出て来るのだろうか。
ありました。“旅ごころ”と題されたページ。
「靴のはきごこちがいいと、旅行に行かねば、などと思う。」
と、書かれていました。
「五味太郎さんだ!」と思ったテレビは、何だったのか。NHKの番組でした。ネット配信は、超便利。観ました。
五味さんは、“違和感こそ、個人だ”と言い、話は、教育に発展し、“今の初等教育は、人間をダメにする”。違和感を感じて、それ違うんじゃない、つまり“モノを言えない人をつくりたいんじゃないか“…と。
これは、靴の話でしたね。
靴を履いて、違和感を感じたら、それが、自分の足と靴との違い。いろんな靴を履き比べて、違和感を感じない「ここちよい靴」を探してください。見つかったら、公園に遊びに行こう、野原を飛び回ろう、旅行に行ったっていいよ!

画像

画像『履きごこちのよい靴』五味太郎著(山と渓谷社、1989年刊)

 

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。