大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㊺ 「裸足と靴」の是々非々

最近、ユビの働きについて考えさせられる機会がありました。私に考えることを促すのですから、もちろん足のユビ。「趾」です。
それで思い出すのが、子ども靴の本を書こうとしていた時のことです。子どもの足と健康を研究され、草履を履くことの効果を提唱なさっている大学教授にお目に掛かりました。
ホテルのロビーだったと記憶していますが、先生は、やおら「立ってみて」とおっしゃいました。立つしかありません。すると、「足を肩幅くらいに開いて、肩の力を抜いて」と。その通りにすると、先生は突然、私の手を軽く引っ張りました。
当然、おっとっとっと。よろけました。
先生は、“そうなるよね”という顔をなさり、「じゃ、今度は、靴を脱いで同じように立ってみて」と。衆目の中で靴を脱ぐことにためらいがかすめましたが、脱ぎました。すると先生は、また引っ張った!
おっと。よろけはしましたが、“とっとっと”まではいかず、止まりました。
先生は、「ねっ!靴は趾の動きを妨げる。だから、足の健康には、趾を自由に動かせる草履が適しているんです」と。
自分の身をもって実験済みであり、納得!そして思いました。
現在でも変わらないでしょうが、その頃、最近の子どもはよく転ぶ、また姿勢が安定しないと言われていました。その原因は、趾。趾で地面を掴んだり、踏ん張って平衡を保つことができていないんだ。趾は、一種のスタビライザーのような役割をしているんだと深く納得しました。

●趾を使うことの効能。しかし…
草履の推奨者でなくとも、靴を脱いで歩くことの効能は認めるところです。
例えば、裸足で芝生の上を歩く。すると、ちくちくと足の裏を刺激します。その刺激が、普段は動かすことのない小さな筋肉を動かし、その結果、足が鍛えられます。
また、砂地を歩くことも有用です。砂地では、足が沈み込むので、趾を使わないと、歩きを進めることができません。
足を健康に育てることにおいて、草履を良しとするのも、同じことだと思います。
草履が脱げないように歩くためには、親指=第一趾と第二趾で鼻緒の付け根を挟み、趾を使わなければなりません。
そして趾を使うことによる筋肉への刺激がアーチの成長を促し、また血液を心臓に押し戻す筋肉ポンプの働きを活性化し、血液循環を促進します。
趾を使うことは、こんなにも重要なのです。
だからと言って、裸足で過ごすことができるでしょうか。
現代の環境では、芝生や砂地は、特別な場所でないと存在しません。土の地面さえ、困難。道路はアスファルトで舗装され、地面はコンクリートで覆われています。
こういう環境では、歩くと強い衝撃が足に加わったりします。足が完成していない子ども達には、かなりリスキーであると言えます。
だから、靴なのです。
但し、「良い」という条件付きです。
そして「良い」とは、踵でしっかりと着地し、あおり運動を引き出し、趾を使って歩けるということです。
「良い靴」で日常を過ごし、時々、芝生や砂地など安全な環境で、裸足になって、趾を自由に動かすのが良いのではないでしょうか。
そんなことを考えた、この頃でした。

この足を健康に育てなければなりません

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴辞典」(シューフィル刊)がある。

靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴辞典」(シューフィル刊)がある。