大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㊻ つくる責任 つかう責任

今月は、何を書こうか…。
考えを巡らしていると、よぎったのは、次のフレーズ。
「靴代を節約し将来の健康を害すのと、高価でも良い靴を履かせ将来も健康で暮らすのと、どちらが本当の節約なのだろうか」。
この言葉は、このコラムの連載第3回に書いています。
このサイト、つまり子ども靴「リコスタ」を製造するドイツの子ども靴メーカー、リコスタ社のラルフ・リーカー社長の言葉です。
最近、このリーカー社長の言葉がフラッシュバックすることが多いのですが、再びよぎったのは、登録しているプレスリリース配信サイトから送られてきたリリースのヘッドラインに、ある化粧品ブランドが靴を発売というものを見付けたことに関係しているかもしれません。
そのヘッドラインは「○○○の歩きやすさにこだわった快適シューズが登場!」というもの。
「○○○」は、おそらく誰もが知っている、基礎化粧品や健康食品のブランド。だからどんな靴なのだろうかと興味がわき、詳細なリリースを開いてみました。
写真で見る限り、悪くありません。撥水機能があるものもありました。果たして、いくらか。6モデルのラインナップですが、最も安いのは、税抜き2000円を切り、他はみんな2000円台でした。
私は、安さに驚くより、この価格にする必要があるのだろうかと思ったのでした。
そのことが、リーカー社長の言葉をフラッシュバックさせたのかもしれません。

●SDGsが盛んにピーアールされています
激安で有名な靴サイトを見ると、子ども靴は、2380円、1680円、1380円、980円、780円、480円、そしてなんと180円。上履きではありません。外履きです。
180円の靴は、キャンバス地製ですが、靴に使用するキャンバス地の価格は、中国で製造した場合、靴メーカーが買う価格はメーター当たり200円くらいからあるそうです。
それで靴の甲部分を作るのに、どのくらい使うかと言うと、婦人靴で20デシと言われています。
デシとは、10㎝四方のことですが、婦人靴20デシは甲の露出部分の多いパンプスを想定していると思われるので、サイズの小さい子ども靴でも半分になったりはしない。少なく見積もっても7割くらいは使用するのではないでしょうか。
また靴の甲は真四角ではないので無駄も出ることを想定すると、90㎝×1mのキャンバス地で6足の甲が取れるくらいの計算になります。
この想定で計算すると、200円÷6=約33円。
これは、甲部分だけの材料費です。底も付けなければなりませんし、中底、中敷etc.、もちろん縫ったり、組み立てたりする工賃も掛かります。
こう考えると、製造コストだけで180円になってしまいそうです。いったいどんな仕組みで、小売価格180円が実現されているのでしょうか。
コロナ禍によって経済的に困窮する事例が増えており、安い製品が求められている現実はあります。しかし安さは、最善なのでしょうか。
私は、そんな反問をしてしまうので、リーカー社長の言葉がフラッシュバックするのです。
一方、SDGsのピーアールがテレビで盛んに行われるようになっています。
SDGsとは「Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標」。2030年までに達成すべき17の目標が掲げられています。
その12番目に「つくる責任 つかう責任」というのがあります。
子ども靴からは離れるかもしれませんが、リーカー社長の言葉と共に「つくる責任 つかう責任」を考えてみてもいいのではないでしょうか。
大地を両足でしっかりと踏みしめて歩ける子ども達が育ってこそ、持続可能な社会は持続していくのだから。

SDGsの17の目標

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。