大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㊹ 高価だから良い靴ではありません

子どもの足に良い靴って、どんな靴ですか?メーカーやブランドを教えていただけると助かります。
FAQに取り上げられるくらい多い質問だと思いますし、雑誌などの取材や執筆でも、編集者からよく出て来る要望です。
しかし、投げかけられた私は、悩みます。できることなら答えたくないと思います。
なぜなら、ブランドを挙げても、そのブランドで売られている靴すべてが足に良い構造になっているかと言うと、それを保証することはできないし、モデル名を絞り込んだとしても、お子さんの足の型に合うとは限らないからです。
お母さん、取材で質問された時も、まずこのように答えます。すると相手の反応は“煮え切らないなぁ”という類いのもの。仕方なく、「このブランドのすべてが良いとは限りませんよ」というエクスキューズをつけて、ブランド名を挙げます。
すると、「リコスタ」しかり。多くは、ドイツやイタリア製の輸入靴。値段は、高いものになります。
そしてこうした情報は一人歩きし、いつの間にか「子どもの足に良い靴=ヨーロッパ製=輸入靴=高価な靴」という図式を生みます。さらには子どもの足の成長に良い靴をと厳選して品揃えし、結果的にドイツ製やイタリア製の高価な子ども靴を扱っている店が“儲け主義じゃないの?!”と言われたりという事態を引き起こしたりもします。

●価格と品質の関係は絶対的ではありません
「だからブランド名は挙げたくないと言ったじゃないですか!」と言いたい。
足に良い靴、言い換えると、体を支え、歩行運動を妨げない靴をつくるには、手間が掛かります。
例えば「リコスタ」は、ドイツの子ども靴規格「WMS」に準拠していますが、「WMS」にとって最も重要なのは、靴をつくるための土台である靴型です。そして靴型の良さを靴に反映させるためには、靴の甲部分を靴型にぴったりと沿わせた状態で、一定時間、保たなければなりません。
靴型にぴったり沿わす工程を「釣り込み」と言いますが、“釣り込んだら一丁上がり”という訳にはいかないのです。
だから、手間が掛かる。つまり、時間を要す。時間は、コストに換算されるので、コスト高になります。結果、出来上がった靴の販売価格、すなわち値段は、往々にして高くなります。
しかし、“往々にして”です。そういう傾向にあるということであって、いわば相対的。絶対的ではありません。
ブランド名、つまりは固有名詞を挙げてしまうと、その情報は絶対化するので、言いたくないのです。
そして、小売価格500円では、前記した意味での良い靴はつくれないと思いますが、手頃な値段の靴の中にも、良い靴はあります。

●だから良い靴のチェックポイントがあります
それを見分けるためにあるのが、良い子ども靴のチェックポイントです。いくつか挙げてみますが、鵜呑みにするのではなく、理由を理解することが大事です。
・カカトがしっかりしている
正しく歩くためには、まっすぐに立てることが基本の「キ」です。そのためには、靴が足のカカトをまっすぐに支える必要があるからです。その役割を果たすのが、靴のカカトに入っているカウンターという部品です。ヘナチョコなボール紙のような素材でも“カウンターが入っています”と言う人もいますが、指でチョコッと押すとヘタっとしてしまうようでは、足のカカトを支えられないのは自明です。特にアーチの発達が十分ではない幼児は、立つと足が内側に倒れ込んだりするので、カカトの作りが、より重要です。
・指の付け根付近で靴が曲がる
理由は、歩く時、この辺りで足が曲がり、蹴り出すような運動をし、次の一歩に繋げているからです。だから曲がらなかったら、スムーズに歩けません。逆にどこでも曲がってしまうと、歩行が安定しません。また大き過ぎる靴を履いていると、足と靴の曲がる位置とタイミングが一致しないので、歩行がギクシャクしてしまいます。歩行運動が完全ではない、小さな子どもは、なおさらです。
この他にもありますが、“難しい”なんて言わないでください。だって新鮮な魚や野菜を買うために目の色を見たり、肌ツヤをチェックしたりしますよね。それと同じです。
絶対情報によらずとも、賢い子ども靴選びをするために、チェックポイントの意味を知ってください。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。