大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑪ 「足育」について考えてみる。

「足育」という文字を、よく見掛けるようになっている。
何と読ませるのか。ソクイク、それともアシイク…。フリガナが振ってあるものも、ないものもある。
「足育=ソクイク」は、靴メーカーのアキレスが商標登録していると聞いた。特許庁の検索ページで調べてみたところ、確かにアキレスの商標として登録されている。「ソクイク」とフリガナを振ったものの登録もあり、また「称呼(呼び名)」の項には「ソクイク、アシイク」の両方が記載されている。しかし、これは商標、つまり商品名。本項は、一般名称としての「足育」を取り上げる。また「アシイク」と読むことにする。「足を育てる」ということが、ストレートに伝わるからだ。
だがそもそも「足育」という言葉は、どこからやって来たのだろうか。

平成17(2005)年7月、食育基本法が施行されたが、アキレスが「足育」の商標登録を出願したのは2006年。現在、知られるようになっている「足育」がつく団体を挙げてみると、特定非営利活動法人日本足育プロジェクト協会、一般社団法人足育研究会、また行政機関では、長野県佐久市が佐久市足育推進協議会を設立し足育サポートセンターを開設している。これらの設立年を見ると、前記の順に、2013年、2015年、2014年。活動団体の設立は、食育基本法施行から10年近く経っているが、「足育」は、「食育」に触発されて生まれた言葉に間違いないだろう。

●「足育」の定義は…
では、足育とは、何なのだろうか。

「足育」を商標登録するアキレスは、軸となる部分を抜き出すと、「足育(そくいく)とは、人間が持つ足本来の機能を取り戻し、足の正しい育成を促すこと」。佐久市足育推進協議会は、「足育(あしいく)とは、足や靴についての知識を得て、正しい姿勢や歩き方を身につけることでトラブルのない健康的な足や身体を育てること」。日本足育プロジェクト協会は、設立趣意書に「『足育』とは、足について正しい知識を得て、正しい靴の選び方や履き方などを知ることでいつまでもトラブルのない足を育てるということです」と記載している。また足育研究会は「100歳まで自分の足で歩ける社会をつくる」を、目的として掲げている。以上は、すべて各企業・団体のホームページからの情報だ。 そして、どんな活動をしているかと言うと、消費者に足と靴の大切さを伝える講座、足計測イベントの開催、それに足と靴の悩みやトラブルに対する相談室・相談会の設置・開催が主だったところだ。

足を育てるとなれば当然、子どもの時からとなる訳で、足育活動の広がりからだろうか、「リコスタ」をはじめてとしたドイツ製子供靴の売れ行きが上がっていると聞く。また市場調査会社の調査によると、靴小売市場規模は、大人は減少しているに子供靴だけが伸びている。但し金額で見ると、靴市場全体が1兆4000億円前後なのに対して、子供靴は900億円程度であり、シェアは6.4%しかない。しかし子ども(0〜15歳未満)人口は、総人口1億2693万人に対して1578万人(いずれも平成28年10月1日現在)。シェアは、12.4%となる。これからすると子供靴はまだ伸ばせるし、むしろ伸ばさなくてはいけない。

それには、足育への関心を一時的なものに終わらせてはならない。終わらせないためには、不断の働き掛け。売場に立つ人は、シューフィッターである、なし、またフィッティング・アドバイスに求められるか否かに関わらず、何気に足と靴の大切さを伝え、保護者は、まずお子さんの足と靴を見るようにすることではないだろうか。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。