大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑭ 纏足が教えてくれる、子供の足の柔らかさ

唐突ですが、纏足の話です。
「纏足=てんそく」は、中国で1000年も続いた習慣ですが、まさしく奇習。女の人の足を小さくする習慣です。小さな足が美人とされ、纏足をしていない女性は女性ではないように見られ、時の政府から纏足禁止令が出されたのは20世紀近くになってからのことですが、当の女性が女性でなくなってしまうのではと恐れ、纏足を解けなかったそうです。
しかし「足を小さく」とは、どういうことなのでしょうか。私の足の、この形のまま小さい…。そんなことができるはずはありません。
纏足の理想の形は、「三寸金蓮」と言われていました。
「三寸」とは、長さ。一寸は、約3.03㎝です。従って三寸は、9.09㎝。ちょうど生まれたばかりの赤ちゃんくらいの大きさです。
そして「金蓮」とは、美しい蓮の花という意味。足が、蓮の花のよう???
纏足した足を上から見ると、真っ直ぐに伸びているのは、親指だけ。その他の指は、足の裏にたたみ込まれ、足の裏の外側に斜めに並んでいます。この指を、ふっくらと丸味を帯びた蓮の花の花弁に見立て、それが並んでいる様子を蓮の花にたとえたのです。
親指以外の四つの指は足裏にたたみ込まれた、長さわずか9㎝、それが纏足。実際の写真もありますが、多くの方が気持ち良くはご覧にならないと思うので、このページには掲載しませんが、問題は、どのようにして、このような足をつくったかです。
方法は、単純と言えば、単純です。親指以外の足を、足裏にたたみ込み、纏足包帯と言われる長い布できつく、きつく、きつく巻く。一度巻いたら、その包帯は、足の手入れをする時以外は、ほどいてはいけない。それが、鉄則。ほどいてしまうと、足が成長を始め、三寸金連の足にすることができなくなるからです。
そして纏足を始めるのは、3歳になる前が良いとされていたそうです。それ以上、大きくなればなるほど、理想の纏足の形は望めず、纏足をする本人=女の子の痛さ、辛さも増すからです。
子どもの足と靴の話に、纏足を持ち出した理由は、ここにあります。

纏足靴
纏足した足に履いた纏足靴。絹製でヒール付き、そして美しい刺しゅうが施されている。
靴は、なんとも美しく、可憐だが…。
(平凡社刊『纏足の靴』より)

この連載で、既に書いていますが、生まれたばかりの赤ちゃんの足は、3分の2が軟骨です。レントゲンを撮ると、多くの部分がボーッとしていて骨が写りません。ボーッとした部分が軟骨です。
この未熟さは、見た目にも表れています。赤ちゃんの足は、ふっくらとし、触るとプクプクしていて、柔らかい。これは、未熟な足を守るために脂肪が被っているから。
そして軟骨は、カルシウムが溜まり、骨に変わっていきますが、そのスピードは、すごくゆっくり。最も軟骨が多いのは、足の踵部分ですが、ほとんどの子どもが歩き始めている1歳半頃は、踵部分のあるべき七つの骨のうちの一つは、まだ軟骨もまま。そしてこの最後の一つが骨に変わるのは、4歳頃です。
こんな足に間違った靴を履かせたら、どうなるか。だから、靴に注意しなければならないのです。
纏足が、そのことを逆説的に教えてくれます。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。