大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑨ どんなに良い靴も、足に合っていないと働かない!

この春、オーストリアのスポーツ科学者、ヴィーラント・キンツ博士が来日、子供たちの靴を調査した。キンツ博士は、既にヨーロッパで同様の調査を多く行っており、オーストリアでは、外履きは69%、室内履きは88%の子供が小さな靴を履いているという結果を得た。日本の子供は、どんな状況なのかを突き止めるべく来日したのだ。
調査は、東京と長野の9ヵ所の幼稚園で、女児299人・男児321人、合計620人の足の長さ、それに履いている靴の内側の長さを測った。外履きについての結果は、72.1%の子供が、小さい靴を履いていた。キンツ博士は、適正な爪先余裕は12㎜としているが、前記は「爪先余裕10㎜未満」を「小さい」と判定した結果だ。

キンツ博士が調査する様子
キンツ博士が調査する様子

●「足に合っている」の第一は、適正な爪先余裕
今回はフィッティングがテーマだが、前記のキンツ博士の調査結果を手掛かりに始めよう。爪先余裕は、捨て寸とも言うが、指の運動空間だ。足は体重が掛かると、やや伸びる。また歩く時、指先は蹴り出すように運動する。だから靴が足の長さより長くないと、歩く度に指が靴の爪先に当たり、巻き爪や陥入爪になったりする。だが、“大きい靴を履きなさい”ということでは、決してない。日本のサイズ表示は「足入れサイズ」という方式を採っており、例えばサイズ「17.0」という表示の靴は、足の長さが17.0㎝の足にフィットするように設計されている。つまり、爪先余裕を含んでいる。

「子供靴はこんなに怖い」(宙出版)より
「子供靴はこんなに怖い」(宙出版)より

●長過ぎる爪先余裕は、別の懸念を生む…
では、どのくらいの爪先余裕が適正なのか。これには諸説あり、また靴メーカーによっても異なる。だからサイズ表示はあくまでも目安であり、前後のサイズを履き比べたりする必要があるのだが、日本では5〜10㎜とするのが一般的。足と靴の踵を合わせみて、爪先に大人の人差し指の幅程度の余裕があればいいといった感じだ。
キンツ氏は、12㎜を標準とし、成長余裕を見込むと17㎜と言っているが、少なくとも日本の子供靴メーカーは、17㎜も爪先余裕を見て設計していないと思われ、爪先余裕を17mmとってフィッティングすると、別の懸念が生まれる。
前回の「良い靴とは」で、「指の付け根辺りで曲がる」を挙げたが、足がこの位置で曲がるからで、足と靴のこの位置が合っていなければならない。しかし17㎜も爪先余裕を見ると、合わなくなる可能性が出てくるのだ。合っていないと、歩行がぎくしゃくした感じになり、転ぶ原因になったりする。

「子供靴はこんなに怖い」(宙出版)より
「子供靴はこんなに怖い」(宙出版)より

●踵が合っていれば、靴の中で足はぶれない
最後に靴と足の踵が合っていなければならない。靴の踵が、足の踵を保持してくれれば、足は靴の中で固定され、安定する。歩く度に、横にぶれたり、前に滑ったりということがなくなり、爪先余裕もしっかり活かされる。幅や甲周りが合っていなければならないと言われるが、これも靴と足の一体化を図り、靴の中で足がぶれることを防止するためだ。
しかし人それぞれ違う足に、そんなにぴったりの靴があるものではない。だから、紐やベルト付きを勧める。紐やベルトは、足に合わせて、留めるための調整具であり固定具だ。最後に、靴の履き方は“踵トントン”などと言われるが、足と靴の踵を合わせるのが、靴の履き方の基本だからだ。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。