大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㉓ こんな子ども靴屋さんが、あったらいいのに!

ロンドンの話は、まだ書いていなかったので書くことにします。
ロンドン中心部にスローンスクエアというチューブ(地下鉄)の駅があります。隣駅のナイツブリッジには有名なデパート、ハロッズがあり、ナイツブリッジとスローンスクエアを繋ぐスローンストリートにはラグジュアリーブランドのブティックが勢揃いというところです。
そんなスローンスクエアの駅前にピーター・ジョーンズというデパートがあります。ハロッズのように高級ではなく、中級の庶民的なデパートです。
そこに入り、特に目的もなく子ども靴売場を眺めていました。すると、お客さんが売場の隅にある小さな箱のようなものから紙切れを取り出しているのが、目に留まりました。
なんだろう???
頭の中がクエスチョンマークで一杯になり、立ち去れずいると、また一人、また一人、同じように小箱から紙を取って行きます。子どももいました。
すると今度は、売場内のカウンターの販売員に、あの紙らしきものを差し出している親子連れが目に入ってきました。
何が、始まるんだろう???
紙を受け取った販売員は、子どもを促し、椅子に座らせました。そして取り出したのは、フットゲージ。あっ、フィッティングだ!
取り出していた紙は、フィッティングの順番カードだったのです。
この体験は、20年以上前のこと。やめてしまっているのではないかと気になり、インターネットで検索してみると、むしろ進化していました。ホームページから予約が取れるようになっていたのです。

●足を測ってフィッティングして販売が当たり前になったら…
文化の違いと言うしかありませんが、日本でも、靴を買うことと足を測ってフィッティングをすることが、当たり前のこととして繋がり、普通のことになったら、どんなに素敵でしょうか。
足を測るということ、大仰なことに思われるかもしれませんが、そんなことはありません。コンピューターを使った足型計測器の紹介をテレビや新聞などで目にされた方は多いと思いますが、ああいう機械がないと測れない訳ではありません。
ロンドンの売場で見たのは、足計測専用の物差しのようなもの。この連載の⑮で紹介したサンパウロの子ども靴店でも、まず足を測り、フィッティングをしていましたが、そこで使っていたのは、画像のもの。使い込まれていることが一目で分かり、長い間、測ってフィッティングする販売を行ってきたことを伺わせますが、こういうもので十分です。
足の計測箇所として、足の長さ、幅、そして甲周りが言われますが、基本は、長さ。子どもにとって靴が大切であることを知った親御さんの中には、「うちの子は、足の幅が狭いのよ」と幅、幅、幅となってしまう方もいらっしゃるかもしれません。幅が合っていることは、もちろん重要ですが、幅にばかり関心が行き、長さのフィットを疎かにしていいというものではありません。
リコスタのこのホームページからは、リコスタ専用スケールを印刷&ダウンロードできますが、リコスタは三つの幅を規定したドイツの子ども靴規格WMSに準拠しているので、スケールに足を載せると、「W=広い」「M=中間」「S=狭い」のどれに当たるかも判定できます。
そして測ることが当たり前の子ども靴店の商品揃えの主役は、デイリーシューズ。子どもたちにとってのデイリー=日常は、通園・通学、そして遊ぶこと。従って歩くことと動き回ることに適した靴が揃えられている。
制靴が足に合わなくて足を傷めることが多いと聞きます。制靴に対応できる、黒を中心とした靴。このゾーンは、制靴のない子どもにとっては、おめかし用の靴にリンクさせることもできそうです。
また、子どもたちが最も長い時間を過ごすのは、幼稚園や学校なので、いわゆる上履きも機能的なものが揃えてある。
この他、季節商品、例えばサンダル、長靴といった特別な用途の靴も考えられるでしょう。
そして、デザインの豊富さよりサイズ。厳選されたデザインが前記のように区分けされ、サイズが豊富に揃っている。
こんな子ども靴屋さんが、身近にあったら、どんなにいいか。そうは思いませんか。

サンパウロの子ども靴店で使われていたフットゲージ

リコスタ専用スケール
印刷&ダウンロードは、下記から。
http://ricosta.jp/img/pdf/ricosta_fussmessung-%E5%8F%B3.pdf

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。