大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑱ 二足歩行ロボットが教わった「歩くこと」の大切さ

スニーカーブームという様相の昨今です。1990年代にもブームがありましたが、その時の主役は、エア・マックス。皆さん、よくご存じだと思いますが、衝撃を吸収するエア・カプセルをアウトソールに取り付けるという新技術を搭載したスニーカーです。
今回のブームにも、新技術が見られます。それは、ニット製アッパー(甲部分)です。ナイキのフライニットに代表されますが、どこが“新”かと言うと、アッパーが一枚で出来ているということです。アッパーは普通、曲線を持ち立体である足の甲にフィットさせるために何枚かのパーツを縫い合わせて作りますが、ニットなので編み立てて作ることができ、縫い合わせる必要がないのです。これは、靴製造にとって省力化が図れる大きな技術革新です。さらにソールの製造には、3Dプリンターが活用されているようです。
このように昨今のスニーカーブームの裏には、技術革新があるようなのですが、革新極まれりというのが、全自動生産工場の登場です。昨年、アディダスがドイツの本社近くに設立し、話題になっています。靴の自動生産は2000年前後から試みられています。ポルトガルで実際に見たことがありますが、アームロボットが動いていました。それから20年近くが経つので、アディダスの全自動生産工場では、かなり進化したアームロボットが動いているのでしょう。

●人間の動きを再現すると、形は自ずと人間に近付く
そしてロボットというと、思い出すのが、産業用ではなく人型、つまり二足歩行ロボットを研究する大学教授にインタビューした時のことです。
曰く「最も難しいのは床反力の制御です」。
床反力とは、地面反力とも言われますが、地面から押し戻される力のことです。立っている時、体重と同じ重さが地面に加えられていますが、同時に同じ重さ(力)で押し戻されています。だから私たちは、倒れずに立っていられるのですが、床反力の存在を体験しています。暗闇で階段を降りようとした時、予想したより段差がないと、着地したと同時に足に強い衝撃を感じます。必要以上の力で足を着いてしまい、その力で地面から押し返されたので衝撃を感じるのです。私たちは、こういうことがないように無意識のうちに力の入れ方を制御しているので、変に地面から押し返されることなくスムーズに歩けている。同じことをロボットにさせるのは難しい、さもありなんです。
さらに「骨がその機能を果たすための最適な形状を求める最適計算をコンピュータにやらせると、その形状は、人間の骨と全く同じ形になります」とおっしゃいました。
何だか難しい言葉のようですが、私は、人間と同じように歩かせることができるとロボットの形は自ずと人間に近付く、人間の体の形は運動が決めていると理解し、人間ってスゴイ!と思いました。

●だからどんどん歩かせましょう!
そして、同じようにスゴイ!と思ったことが足にもあります。 小さな子供は、ちょこまかちょこまかとよく動きます。大人は、その動きに追い付くのにヘトヘトですが、子どもは疲れを知りません。
足は第二の心臓と言われますが、足の筋肉ポンプが血液を心臓へと押し戻し、血液の循環に大きな役割を果たしています。小さな子どもが疲れ知らずなのは、この筋肉ポンプを活発に動かすことができるから。そしてなぜ活発に動かせるかと言うと、まだ筋肉が未発達で細いからと言うのです。
筋肉、それにじん帯の発達は、足の成長に不可欠であり、動くことがその発達を促しますが、未発達な筋肉が疲れを知らない動きを可能にしているなんてスゴくありませんか!
だって言ってみれば、成長のために仕組まれた未熟。人間って、すごく巧みに設計されているのです。
だからどんどん歩かせてください。
風が吹けば桶屋が…みたいは話ですが、足に落ち着きました。

拙著「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)より

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。