大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㉛ オルガの靴

「大草原の小さな家」、皆さん、ご存じだと思います。
アメリカのテレビドラマ。NHKで放送されていました。西部開拓時代、貧しいけれど、助け合いながら生活を築いていく、心温まる家族の物語。アーリーアメリカンの装いも印象的です。
そして今、翻訳から吹き替えキャストまで一新したデジタルリマスター版が、NHK BSで放送中です。
ある日、テレビの番組表を見ていました。
NHK BSプレミアム8:30 大草原の小さな家(8)「オルガの靴」
「靴」とあったら、観ないわけにはいきません。
どんな物語なのだろうか。ローラが新しい靴を買ってもらうのかな…。でも、「オルガ」とある…。
実際は、こうでした。

●お父さんの閃き
女の子たちが、お金持ちのネリーの誕生パーティに招かれます。ローラは、高価な人形に触ってネリーに突き飛ばされ、足を傷めてしまいます。みんなが外に出て遊ぶことになりますが、ローラは一緒に遊べません。そこに近付いてきたのが、オルガ。オルガは足が悪いために走り回ることができず、外遊びの時は、いつも一人。そんなオルガだから、ローラを気遣ったのです。
ローラは、「足はどうしたのか」と率直に聞きます。オルガは、「生まれつきよ」と。二人は、河原に行って遊びます。
家に帰ったローラは、お父さんにオルガという新しい友達ができたこと、オルガは足が悪いことを話します。そして「河原で悪い方の足が高いところにあった時、オルガは普通に歩けていた」と。
お父さんは、何かを思い付いたようでした。
お父さんは、オルガの家を訪ね、オルガのお父さんに話します。
「飼っている馬の中に足が1本短いのがいるが、蹄鉄で調整し、他の馬と同じように走れている。自分に考えがある。オルガの靴を作らせてくれないか」。
妻は亡くなり、一人でオルガを育てているお父さんは、オルガを守りたい一心から人となるべく接触させまいと考えており、ローラのお父さんの申し出を頑なに拒みます。
そのやり取りを、一緒に暮らすおばあさんが聞いていました。おばあさんは、お父さんに気付かれないようにオルガの靴を持ち出し、ローラのお父さんに「靴を作ってやって欲しい」と頼みます。
オルガの靴づくりが始まります。
お父さんは、オルガの悪い方の足の下に木を積んで、脚の長さを合わせます。次に木のブロックを削ります。
出来上がったのは、悪い方の足だけにヴィヴィアン・ウエストウッドのロッキングホースのような厚いプラットフォームが付いた靴。
「履いてみて」と促されたオルガ、最初はゆっくり、次に早く。悪い足を引きずることなく歩けます!オルガの顔に笑みが浮かび、ローラの家族は喝采です。
遊びの輪の外で一人で観ているオルガが、もういません。三角ベースも、鬼ごっこも一緒にできます。

●笑顔をもたらす靴の力
オルガは生まれつき左右の脚の長さが違う、脚長差があった。ローラのお父さんは、短い方の脚の靴に厚いプラットフォームを付けることで脚長差を整えたのです。
靴には「整形靴」と言われる、矯正具や治療具としての分野があります。「オルガの靴」のお話は、靴が持つ、そんな力を示す一例です。
お子さんの足にトラブルがなくても、靴がこのような力を持っていることを知っていれば、より良い靴を選び、子どもたちを健康に導くことができます。
オルガ、そしてローラやその家族に笑顔をもたらしたように、靴は、人を笑顔にする力を持っています。
但し、「良い」という条件付き。ローラのお父さんのようにいかなくとも、「良い靴」を選べる親でありたいものです。

『オルガの靴』の画像

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。