大谷知子

子供の足と靴のこと

連載⑯ ポダイアトリストについて思うこと

今月のサロンは、NYのポダイアトリストをお招き!ある団体から、こんなお知らせ。これは、行かねば!ポダイアトリストのことは、知識としては分かっているが、話したことも、会ったこともない。それが、話が聞ける。しかもニューヨークでクリニックを営む日本人女性ポダイアトリストというのです。
いきなりの書き出しですが、今回は、欧米の足医療について書いてみたいと思います。
お話しになったのは、林美香先生。ニューヨーク足病医科大学で足病医学博士号を取得後、マンハッタンの病院で足病医科・外科の研修医を修了。その後も足医療の経験を積み、2008年にニューヨーク・マンハッタンでは日系初の足病専門医院「林美香足病科クリニック」を開業。外反母趾、かかとの痛み、タコ・魚の目、巻き爪、それに骨折やねんざ等の治療に当たっていらっしゃいます。
なんとなくイメージが湧いてきたでしょうか。
ポダイアトリストは、日本語では「足(あし)病医」。足専門のお医者さんです。外反母趾の手術など外科も守備範囲ですが、林先生は、研修医時代の経験やスポーツ医学を身に付けたことによって「切らない治療」をモットーとしていると話されました。
ポダイアトリストは、アメリカに限らずカナダ、オーストラリア、またニュージーランドにもいます。すべて英語を公用語とする国ですが、もちろんイギリスにも。国の歴史に照らしても、イギリスの方が古くから存在し、かつてはキロポディストと言われていましたが、今ではポダイアトリストに統一されつつあるようです。

●“子供靴は大切“という意識が自然と育つ社会的土壌
もちろん英語圏だけに限りません。ヨーロッパ各国に足医療の専門家がいます。国によって守備範囲は多少異なるようですが、フランスではポドローグ、スペインではポドロゴと言います。
そして「リコスタ」の故郷、ドイツでは、ポドローゲです。また靴に携わる日本の人たちによく知られている整形靴マイスターという専門職もいます。
ポドローゲは足治療に携わる国家資格者、整形靴マイスターは足治療に必要な靴や足底挿板などと言われる、いわゆるインソールを作る専門技術を持った職人。整形靴マイスターは取材したことがあるので詳しく書きます。
マイスターは「親方」という意味。職人養成制度であるマイスター制度で定められた親方職人ですが、マイスターになるのは長い年月を要します。
まず親方=マイスターに弟子入り。職業訓練校に通いながら見習いとして3年半修業を積んだ後に試験を受ける。これに合格するとゲゼレ(職人)になれますが、さらに各地の工房を渡り歩くなどして、さらに3年間修業。その後にマイスター学校に入学し、経営学なども学び、マイスター試験に合格すると、晴れてマイスターとなり、独立開業することができます。
取材させてもらったのは、温泉で知られるバーデン=バーデン近くのフロイデンシュタットという町のマイスターですが、1階が靴ショップ、2階が工房でした。店頭に掲げられている足とミドリ十字を組み合わせたマーク(画像参照)が、整形靴マイスターのサインです。足に良い靴を求めて来る人もいれば、整形外科医の処方箋を持ってやって来る人もいます。マイスターは、処方箋の指示を見て、治療や矯正効果のある中敷や靴を作ります。
ポダイアトリストの林先生が講演の中で「外反母趾が痛いという患者さんにカスタムメイドのインソールを処方したりしますが,価格は4万6000円くらい。高いとはおっしゃいません。皆さん、そういうものだと思ってらっしゃるのです」と。そのくらい普通のことということです。
子供靴とは遠い話のようですが、足医療が社会に根付いているからこそ、子供の足の健康を気遣い、良い靴を履かせようという意識が自然に育つのではないでしょうか。


画像は、取材した整形靴マイスターのショップ&工房。
もちろん、「リコスタ」などの子供靴も扱っている。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。