大谷知子

子供の足と靴のこと

連載81 靴脱ぎ文化と上履き

ネットサーフィンをしていたら、“神戸の学校では「土足制」”という見出しに出くわしました。上履きに履き替えず、外履き(土足)のまま学校生活を送るということです。以前から知っていましたが、“神戸らしいな”くらいの受け止めでした。
江戸幕府が鎖国を解いた際、外国船を受け入れる港に決めたのが神戸港。それに伴い外国人居留地が設けられた。こうした歴史的要因によって西洋人の暮らし方に触れてきたことが、学校にも影響を及ぼし、靴を脱がずに学校生活を送るということになったのだろう。“神戸らしい”とは、こんなことでした。
しかし何となく気になり、記事のいくつかを開いてみました。
そこに書かれていたのは、
・神戸市の小中学校の9割が土足制を採用していること。
・西宮市など近隣の市では圧倒的に上履き制であること。
後者は、抱いていたイメージ通りでしたが、前者は意外でした。土足制を採用しているのは、あくまでも一部。3割くらいではないか、というイメージだったからです。
記事で初めて知ったのは、床のこと。土足で入ると靴に付いた砂や土が校舎内に持ち込まれる。その対策として、校舎に入る前にマットで靴底の汚れをしっかり落とす。これは当然として、さらに床に油を引いて土ぼこりが立たないようにしているのだそうです。これは、想像だにしていませんでしたが、なるほど、なるほどです。
そして校舎は木造から鉄筋コンクリート造になっており、その流れからすると土足制が増えると予想していましたが、全く違いました。
「近年は建て替え時に上履き制を導入するケースが増加」(図表参照)しているのだそうです。主たる理由は、衛生面を考慮してのこと。しかし、震災を経験していることから、避難のことを考慮し、土足制を支持する傾向もあるとのことでした。

画像日本経済新聞2015年7月18日付(謎解きクルーズ)より

●ドイツの小学校も靴を脱ぐ
では、そもそもなぜ、住居などに入るのに靴(履物)を脱ぐのでしょうか。
おそらく第一の要因は、気候と思われます。日本の気候は、専門的には温帯湿潤というそうですが、夏はそこそこに暑く、何より湿気が多い。そのため風通しを良くし湿気を逃がすために高床式という建物のスタイルが生まれた。地面より高い位置に床が登場した訳で、すると履物についた汚れを住居内に持ち込まず、床を汚さないために履物を脱ぐようになった。こうした流れは、自然なこととして容易に想像できるように思われます。
そして靴脱ぎ文化は、学校でも踏襲されたということになりますが、片側廊下(教室の片側一方に廊下を配したスタイル)の校舎スタイルが普及したのは、明治時代中期のことだ。その内部は、板張りの床に机と椅子が並べられている。学制発布(1872・明治5年)以前の初等教育の場であった寺子屋とは異なるスタイルです。一口に言えば、洋風スタイルになった訳ですが、そこに西洋人のように土足で上がれたか。相当に抵抗があったことは、これも容易に想像でき、校舎内用の履物に履き替えた。それが学校の上履きとして定着したと言えるでしょう。
ところで靴を脱ぐ習慣は、日本だけのことかというとそうでもないようです。韓国ドラマで靴を脱いでいる光景を見ますし、その他のアジアの国の多く、またヨーロッパでも北ヨーロッパでは、特にブーツは脱ぐのが一般的だそうです。
さらに学校でも靴を履き替えるという報告もあります。その国は、リコスタの故郷、ドイツです。そしてそれを報告しているのは、学校や家庭などで正しい靴行動を教えるシューエデュケーションⓇを推奨・推進する活動を行っている吉村真由美さんです。
吉村さんの講演が下記のページで紹介されていますが、その後半を見てください。靴脱ぎの場所がどのようなものか、画像で紹介されています。
http://www.f-works.com/fwp/fwpbn/14-06/pick4.html
では、学校内では、どのような靴を履いているのでしょう。それは、次回に譲ります。

 

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。