大谷知子

子供の足と靴のこと

連載83 そうちゃんとくつ — “こっちがいい!”のメカニズム

そうちゃんは、1カ月もしないうちに4歳になります。
はて、何足、履き替えたかな…。
作ってくれている職人とのメッセージの交換を遡ってみました。
「作って!」と依頼したのは、2021年10月のこと。「13.0㎝」をお願いしましたが、試作が届き、そうちゃんに履かせてみたら、爪先に余裕がありすぎ、甲も高過ぎるようで、羽根が重なり過ぎてベルトによる調整範囲を超えている。その状態を報告したところ、「幅の狭い靴型に変更する必要はなさそうなので、足長12.5㎝と13.0㎝の中間で作る」ということに決まりました。
それからだいたい6カ月ごとにサイズアップし、これまでに7サイズを作ってもらっていました。
それで問題が起きたのが、15.5㎝になった時。そうちゃんが、履いてくれなかったのです。
このサイズからベビー用からチャイルド用ラストになり、デザインがローカットになりました。原因は、このスタイルの変更のようでした。
このことは、「そうちゃんとハイカット」というタイトルで書きましたが、履いてくれない状態は続きました。仕方なく、大手メーカーのハイカット・スニーカーを用意しましたが、「こっちがいい!」と職人製のハイカットを選んでしまう。
サイズアウトしつつあるのに、この状態が続き、最終的に職人にチャイルド用ハイカット靴型を用意してもらい作ってもらいました。
その時、思ったのです。
そうちゃんの“こっちがいい!”の選択は、どのように導きだされるのだろうか、と。

そうちゃんが走っている画像

●履き心地に関する情報は皮膚が感知する…
履き心地がいいから。そう言ってしまえば、それまでです。不思議なのは、そうちゃんが、それをどのように認識したかです。
靴が足に合っていないと、痛かったり、こすれている感じがしたりします。靴の性能が低く、歩行運動が阻害されていても、痛みが発生したり、特定の箇所に圧を感じたりします。
この痛みや圧、また嫌な感じを、受容する、つまり感じるのは、皮膚です。
皮膚には、触覚、圧覚、痛覚、温覚、冷覚の受容器があるのだそうです。受容器は神経の束だったり、細胞の塊だったりするようですが、その数は、それぞれの受容器によって異なり、最も多いのは、痛覚。つまり痛いと感じる受容器で、全身に約200万個。皮膚1㎠に換算すると、約120個もあるのだそうです。そして各受容器によって順応速度、簡単に言うと慣れる速度が異なり、痛みの受容器は、順応しない。つまり慣れないのだそう。慣れるとは、痛みを感じなくなるということであり、痛みは体が発する危険信号だとすると、慣れてしまう=痛くなくなってしまうと、体が危険にさらされるからではないでしょうか。
また、体の部位によっても受容器の種類や数の分布が異なり、足の裏、また掌には、触覚の一つであるマイスナー(あるいはマイスネル)小体という受容器が多く分布しているそうです。足の裏は、最初に地面に触れるので、その状態を把握するために触覚が多く存在するのではないでしょうか。
そして受容器には、閾値(いきち)というものがある。これは、「反応する・しないの境目」。痛みなら、痛いと感じるか、感じないかの境界の値です。
そうちゃんは、職人が作った靴を履き続ける中で、触覚、痛覚、圧覚などの閾値の最適解を身に付けた。そこに視覚から得たスタイル情報が重ね合わされ、「これがいい!」となった。
思いつくままに色々な検索語をネットに打ち込んだ結果、合っているかどうかは分かりませんが、こんな答えに辿り着いたのでした。

 

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。