大谷知子

子供の足と靴のこと

連載㉕ 靴のスタイルから見えてくるもの

靴の基本的なスタイルについて書いてみたいと思います。
まずは、スリッポンです。
「slip on=スリップ・オン」が詰まって「slip-on=スリッポン」。「slip」は「滑る」という意味。足を滑り込ませるように靴に入れて履く、紐やベルトなどの留め具が付いていないスタイルです。
作りは、足の甲のいちばん高い辺りから先が一つのパーツになっています。ローファーは、スリッポンの代表ですが、甲の周縁のパーツの上に甲の上部を被うパーツが縫い付けられ一枚になっているので、構造は同じです。
履き口をどのくらいの深さにするかが、デザインのポイントになりますが、浅いものは、パンプスと言うのが一般的。もちろん留め具は無しです。ストラップを付けると、呼び名が変わり、「メリージェーン」(イラスト参照)になります。子ども靴では、女の子用の代表的スタイルでもあります。
という訳で、履き口が深め、あるいは深いのがスリッポン。これは、留め具がないので、脱げないようにするためであり、また足にフィットしていることが、より求められるスタイルです。
すると名前に反して、意外に滑り込ませにくい。だから足を靴に滑り込ませるための道具、つまり靴ベラを使うのが、あるべき履き方です。でも、面倒。それに日本には、靴ベラを使うという文化がない。そこで、つま先を地面に”トントン”とやって、無理矢理に足を入れます。
あちゃー!!靴のことを分かっている人は、目を被いたくなります。

●外羽根は、履き口が大きく開く
留め具のないスリッポンに対するのは、留め具のあるスタイル。留め具の基本は、紐です。という訳で、もう一つの靴の基本スタイルは、紐締めの靴です。
そして紐締めには、内羽根、外羽根の二つのスタイルがあります。違いは、紐が取り付けられている“羽根”部分の違いにあります。
内羽根は、甲を被うパーツと羽根が一体、もしくは甲の前部分のパーツの縁に潜り込ませるように縫い付けられています。つまり、羽根はあっても、甲部分は一つ。従って、羽根は大きくは開きません。構造と機能的特徴は、スリッポンと変わらないと言えます。
一方、外羽根は、羽根が甲の上に乗っかるように取り付けられています。だから、羽根が大きく開きます。
大きく開くことのメリットは、二つあります。
羽根が開くとは、履き口が大きく開くということ。従って、足が入れやすい。
もう一つは、フィッティングについてのアローワンス、つまり許容度が高い。だから多少甲の高さが合っていなくても支障を感じることなく履けます。
そして外羽根の羽根の一方をベルトに替えると、モンクストラップというスタイルに。さらにモンクのベルトをマジックテープに替えると、子ども靴によくあるスタイルになります。
良い子ども靴のスタイルとして、マジックテープ付きが推奨される理由は、
①外羽根の構造なので、履き口が大きく開き、足が入れやすい
②フィッティングの許容度が高い
③留め具(マジックテープ)によって、足を靴内の適正な位置に保持できる
③ばかりで、①と②は、意識していなかったのではありませんか。紐付きがベターと、内羽根の紐靴を選んだとしたら、①②のメリットはないので、ご注意を!

いずれも左から(上)スリッポン、メリージェーン、内羽根 (下)モンクストラップ、マジックテープ付き、外羽根

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。