大谷知子

子供の足と靴のこと

連載57 「正しく履く」は、「正しく脱ぐ」から始まります。

前回の最後に書いた通り、今回のテーマは、「靴の正しい脱ぎ方・履き方」です。
前回のコラムを復習するところから始めると、月齢が進むに従って、座って脱ぐことはしなくなり、5歳児、つまり年長さんは、立ったまま、一方の踵でもう一方の踵を押さえ足を抜き取る形になり、この脱ぎ方は、保育者=大人と共通しています。立位姿勢がしっかり取れるようになると、この脱ぎ方になるとも言え、成長の証しであり、靴の脱ぎ方の完成形…。
いえ、いえ、とんでもないですよね。
靴の踵は、足の踵を支え、靴の中で足が動かないように保持して、真っ直ぐ立ち、正しく歩けるように導いてくれる、いわば靴の命のような箇所です。その踵を押し付けたり、すり合わせたりを脱ぐ度に繰り返していたら、大事な踵がゆがんだり、傷ついたりしてしまうでしょう。いくらちゃんと立てるようになったことで、できるようになる脱ぎ方とは言え、このような脱ぎ方が、正しいはずはありません。

●腰を下ろして片足ずつ脱ぐ
では、どのように脱ぐのが、正しいのでしょうか。
まず、ベルトや紐を十分に緩め、履き口を大きく開きます。
次に、右足なら左手、左足なら右手で靴の踵を持ち、片足ずつ足を抜きます。
立ってこれを行うと、片足立ちになるので不安定です。家ならば、玄関の上がりかまちに腰を下ろして脱ぐのがベストです。保育園や幼稚園では、園庭と保育室の境に段差のあるテラスが設けられていたり、小学校では、昇降口の下駄箱の前に上がりかまちのような段差が設けられていたり、簀の子が置かれているようなので、そこに腰を下ろすのが良いです。

●踵と踵を合わせて締める
そして、脱いだら履く。どんな履き方が正しいのでしょうか。
履く時も、腰を下ろして行うのが、ベストです。
上がりかまちなどに腰を下ろしたら、靴の履き口を十分に開き、靴の中に足を入れます。
次に踵をトンと地面に着け、爪先が上がった状態にします。このステップを“踵トントン”と表現している正しい履き方解説もありますが、筆者のやり方は、トントンとはせず、靴の踵は地面に着けた状態で、靴の中の足の踵を後方にずらすように動かし、靴と足の踵を合わせるようにします。
そして、靴と足の踵があった状態を保ち、紐靴、またベルトが2本以上あるなら、爪先側から足に合わせて締め、結ぶ、あるいは留めて完了です。

●「脱ぐ」と「履く」は、繋がっています
正しい脱ぎ方、履き方が分かったところで、気づくことはありませんか。
正しい脱ぎ方のファーストステップは、紐やベルトを十分に緩め、履き口を開くこと。
そして、正しい履き方のファーストステップも、十分に履き口を開くこと。
筆者は、編み上げのショートブーツをしばしば履いていますが、脱ぐ時に紐を十分に緩めず、半ば無理矢理に足を引き抜いて脱いでしまうと、次に履く時に“シマッタ!”。脱いだ時の状態のままでは、足を入れることができず、紐を緩めなければならない。ちゃんと脱いでおけば良かった!後悔します。
つまり、「正しく脱ぐ」は、「正しく履く」に通じる。
靴の正しい履き方は、良く言われるところだと思いますが、履いたら必ず脱ぎ、脱いだら必ず履く。履くと脱ぐは、繋がった行為だと心すべしです。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。