大谷知子

子供の足と靴のこと

連載-101- 童話の中の靴が示すもの

公開日:2026.6.30

 童話をしばらく取り上げていないなと、本棚をチェックしてみました。
 目に留まったのは、小さな本。タイトルは『オズの魔法つかい』でした。娘が保育園に通っていた時、園を通して購読していた絵本。「名作アニメ絵本シリーズ」の一冊です。
 その名の通り、裏表紙のシリーズ紹介には、よく知られた童話が並んでいます。その中には靴が登場するお話がいくつもありました。
 『ながぐつをはいたねこ』
 『シンデレラ』
 『赤いくつ』
 『ピノキオ』
といった具合です。
 なぜなのでしょうか。靴は、物語に意味性を与える象徴の役割を果たすのでしょうか。
 靴が果たす役割をすぐに理解できるのは、『ながぐつをはいたねこ』でしょう。直立二足歩行はもとより、その足に靴をはじめとする履物を履くのは、人間だけ。だから、靴は擬人化の格好のアイテム。長靴を履かせることによって、ねこは人と同じように行動し考える能力を持ち、物語を動かす存在になるのです。
 『シンデレラ』は、グリム童話、またシャルル・ペロー作の童話として知られていますが、古くはギリシャ、またヨーロッパだけではなく中国にもよく似たお話が伝えられていると言います。靴も、ガラス製ではなく毛皮や繻子(しゅす=サテンのような織物)製というものもあります。
 そしてよく知られているように、お城に置いてきてしまった片方の靴が足にぴったりと合ったことで、靴の主がシンデレラであることが証明され、王子と結婚します。
 靴は、本人であること、言い換えると同一性の証明であり、結婚は性的な事象に結びつき、夫婦、あるいは男女の和合の象徴と言えるかもしれません。
 『赤いくつ』は、残酷とも言えるお話です。
 堅信礼(教会の正会員となる儀式)を受ける年になった少女カーレンは、自分が気に入った赤い革で靴を作ってしまい、黒い靴を履かなければいけない教会に赤い靴で行ってしまいます。それを注意されますが、次の日曜日の聖餐式に再び赤い靴で参列してしまいます。
 その帰り、老兵士に「きれいなダンスシューズだね」と声を掛けられます。カーレンは嬉しくなりちょっと踊ってみます。するとどうでしょう。踊りを止めたくても止められません。カーレンは野を越え、山を超え、昼も夜も踊り続けることになってしまい、止めるには、足を切り落とすしかありませんでした。
 『シンデレラ』の靴が、男女の性的な結び付きを象徴しているならば、燃えさかる赤い色の靴は欲情。『赤いくつ』は、貞節を説いているのかもしれません。

●ドロシーがカカトを3回鳴らすと…

 本棚で見つけた『オズの魔法つかい』に登場するのは、魔法の靴です。
 本としてよりも映画の方が有名かもしれません。なかでも1939年製作・ジュディ・ガーランド主演のものです。
 また、2024年、2025年と続けて公開された映画「ウィキッド ふたりの魔女」、その続編で最終章の「ウィキッド 永遠の約束」にも、オズの魔法使いが登場し、ドロシーやブリキ男、そして靴も登場します。
 多くの人の印象に残っているのは、まだ少女だったジュディ・ガーランドが履いていた、真っ赤なルビーの靴ではないでしょうか。
 でも原作に登場するのは、シルバーの靴。映画「ウィキッド」では、「ふたりの魔女」で初登場しますが、真珠のような宝石が散りばめられたシルバーの靴。「永遠の約束」で再登場し、魔法を発揮したり、魔女がドロシーに与えたりしますが、色は、シルバーのままです。本棚で見つけた『オズ』も、シルバーで描かれています。
 では、ドロシーが魔女からもらった靴は、どんな魔法を発揮するのでしょうか。
 映画のルビーの靴、絵本のシルバーの靴も、カカトを3回鳴らすと魔力を発揮しますが、ドロシーがカカトを鳴らすのは、カンザスの家に帰る時。ピュッと瞬間移動し、懐かしいカンザスのお家に帰れるのです。
 『オズの魔法つかい』の靴は、移動手段。移動は靴本来の機能です。
 子ども達が毎日、履いている靴は、瞬間移動はできませんが、行きたいところに連れて行ってくれる強い味方です。

本棚で見つけた絵本の、魔女のシルバーの靴が描かれたページ
(発行:1986年・永岡出版)

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。