大谷知子

子供の足と靴のこと

連載72 革にまつわるSDGs、知ってますか?

SDGsなんて、“子供”をタイトルにいただくコラムにふさわしいのか。
でも、「ESD」という言葉もあります。
頭の“E”は、“Education”。続く“SD”は“Sustainable Development”。“E”と“S”の間には“for”が隠されており、続けると「持続可能な開発のための教育」となります。
「持続可能な社会の創り手を育てる教育」を意味するそうですが、実は、2008年の教育基本法と学習指導要領の改訂で「持続可能な社会の構築」ということが組み込まれ、そして2020年度に小学校、2021年度には中学校でSDGsを学ぶことが必修となっているのです。
だから子ども達の方が、SDGsについてお母さん、お父さんより詳しいかもしれません。
そんな子ども達に革のことも知って欲しいのです。

●再び『一万年の旅路』
最近、動物の皮(skin)から作られる革(leather)は、サステナビリティに反するという風潮が認められます。グッチなどのラグジュアリーブランドが毛皮の使用禁止を表明したことで、その傾向は強まっているようでもあります。
でも、革と毛皮は、まったく違います。
革の原料である皮は、肉を食すために飼育されている牛や豚が、その目的である肉になる時に生まれます。言ってみれば、肉にとって皮は、廃棄物です。それを鞣しという技術によって、人の暮らしにとって有用な素材に変えたのが、革です。そしてその営みは、有史以前から行われています。
『一万年の旅路』(ポーラ・アンダーウッド著/星川淳訳、1998年、翔泳社刊)のことは、以前にこのコラム(連載37)で書いていますが、もう一度、書きます。
この本は、ネイティブ・アメリカンのイロコイ族が口承で伝えてきた、北アフリカを出て北米大陸の五大湖のほとりに定住するまでの長い、長い歩みを書き起こしたものです。その中に次のような件があります。
厳しい寒さが続いた年のこと、年老いた男の娘の子が、寒さで死んでしまう。男の悲しみは深く、さらなる寒さが待ち受ける北に向かって一人旅立つ。死出の旅に出たのだ。男は歩きながら、熊の中味を食べた後の皮を熊のように体にぴたっと纏うことができたら、どんなに暖かいだろうかと思い、亡くなった子が纏った姿を想像して笑みを浮かべる。そうこうするうちに空腹を覚え、硬い草の実を口に入れ噛んでいると、柔らかくなり一塊になることに今更ながら気づく。そして思い付き、荷物を運ぶために携えていた硬くなった皮の端を噛んでみる。草の実と同じように柔らかくなったが、味が悪くなった。男は、それを洗い乾かす。すると、乾いても硬くならず柔らかいままだった。男は、その発見を携え一族に戻る。それ以来、寒い夜は、肉を食べた後の獣の皮を柔らかくして纏って寝るようになり、小さな子が元気に朝を迎えられるようになった。
鞣しの発見、革の誕生です。

●革にするために飼育される家畜は、一頭もいない
現在は、自分で狩りをすることも、飼育することもなく、酪農家に飼育された家畜は、業者によって屠畜(とちく)され、肉となり、同時に生まれた皮は、原皮という革の原料として流通します。
噛むという行為は、化学を用いた鞣し技術へと発展し、管理された鞣し工場で、原皮は革となります。
飼育の目的は、あくまでも食肉。革にするために命を奪われる家畜は、一頭もいません。
また、肉にとっては、骨なども不要なものですが、これも、廃棄されることはありません。
骨などから製造されるのが、お菓子の材料として馴染み深いゼラチンであり、美肌に欠かせないもののようになっているコラーゲン、またソーセージのケーシング、つまり皮、さらには人工血管など医学の分野でも活用されています。
 皮ひとつとっても、革にリサイクルせず廃棄したら、どうなるでしょうか。焼却したとしたら、相当量のCO₂が排出されることは、想像に難くありません。
革は、環境にとってマイナスどころか、最古のリサイクルとも言える、サステナブルな素材なのです。
SDGsを勉強しているお子さんに、こんな話をしたら、興味を示すのではありませんか。自由研究のテーマとしても打ってつけかもしれません。
下の画像は、皮革関連業者団体の統合組織である日本皮革産業連合会が立ち上げた「TLA(Thinking Leather Action)」という取り組みのリーフレット表紙です。皮革業界が、革がサステナブルであることを広く知ってもらおうと動き出しています。

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大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。