大谷知子

子供の足と靴のこと

連載-99- 靴は、椅子になれるのか?

 えっ! どういうこと?
 このタイトル、ファッション業界専門紙「WWD」のメールニュースで見つけた見出しです。
 種明かしをしてしまいます。
 「カリモク」ブランドで知られる家具メーカーのカリモク家具が、アシックスと協業。アシックスから提供されたデッドストックやサンプル品のスニーカーを分解・粉砕した材料で製造したソファと椅子を全国発売した。
 このような内容でした。
 靴は、椅子になれたのです。
 でもこの話題をコラムに書こうと決めた理由は、この見出しだけではありません。
 「WWD」は、さらにウェブサイトのコンテンツ「サステナビリティ」のポッドキャスト“サステナビリティファッショントーク”で、この協業とサステナビリティをテーマに、カリモク広報担当者のインタビューを配信しています。
 そもそもの始まりは、アシックスからの打診。しかし決して容易いものではなく、検討を重ねる中で、要約すると、次のことが決め手になったと語っています。
 家具作りは、人の体重を支えるものを、その機能がいかに長く持つように作るかです。靴も、体重を支えるものです。
 まさしく卓見です。

アシックスとの協業による「カリモクニュースタンダード」
(カリモク プレスリリースより)

 支える、つまり支持性は、靴が備えていなければならない重要な性能です。
 足は、全体重を支えて立ち、歩いています。その足に履いて立ち、歩くのですから、靴は、その足を支えなければならず、同時に歩くと、体重にプラス歩く速さに応じた力が加わるので、その衝撃も受け止めなければなりません。
 従ってまず、靴のソールには、体重を受け止める硬さ、それと同時に衝撃を吸収する柔らかさも必要です。靴の性能を追求し続けてきた知り合いは、適正な材質を「コルクのような硬さと柔らかさ」と表現しました。
 外からは見えませんが、底部に入っている中底も、足を支えることに大きく貢献し、さらにカカト部分に入っているカウンターというパーツは、足を真っ直ぐに保持し体を支えています。

提供されたのは、チップ状とシート状のEVAフォーム材

 では、体を支える椅子は、靴を分解・粉砕した材料をどのように使い、作られたのでしょうか。ポッドキャストのインタビューとカリモクのプレスリリースからまとめてみます。
 この協業の前段として、アシックスはデッドストックなどを分解・粉砕した材料を使用したスニーカー「ネオカーブ」を、2024年にヨーロッパ限定で発売しています。限定としたのは、分解・粉砕する提携企業がオランダにあるため、日本などの他地域での展開は、CO₂が発生する輸送が必要となるため、CO₂削減を考慮してのことです。
 また、なぜカリモクに協業を打診したかというと、カリモクは、2009年から家具には使用されない幹が細いなどの国産未利用材を活用した「カリモクニュースタンダード」というブランドを2009年から展開。つまり、サステナブルな物づくりを行っていたのです。
 それでアシックスから提供された材料は、チップ状とシート状のEVAフォーム材でした。
 カリモクは、これらを座面と背もたれのクッション材として使用しました。

アシックスから提供された材料のビジュアル画像(左)
(カリモク プレスリリースより)

 こう書いてしまうと簡単ですが、実際には試行錯誤が繰り返されたようです。座面と背もたれでは、求められるクッションの性質が違うだろうし、ただクッションが良いだけでなく元に戻る反発性と耐久性が求められます。そうでなくては長い年月にわたり快適に座り続けることはできません。
 開発スタッフは、二つの材料を重ねたり、重ねる層の数、各層の厚さ、重ねる順序など実験を繰り返し、快適の最適解に辿り着きました。
 その結果、完成したのが、前掲画像のソファとチェアです。
 シンプルで美しい!
 美しいフォルムには機能が宿る。長年の取材を通じて、私は、そう信じています。もちろん、子ども靴もです。
 そして支持性を備えた靴は、安定した歩行を実現し、未熟な子どもの足を健康に育ててくれます。

大谷知子(おおや・ともこ)
靴ジャーナリスト。1953年、埼玉県生まれ。靴業界誌「靴業界(現フットウエア・プレス)」を皮切りに、靴のカルチャーマガジン「シューフィル」(1997年創刊)の主筆を務めるなど、靴の取材・執筆歴は約40年。ビジネス、ファッション、カルチャー、そして健康と靴をオールラウンドにカバーし、1996年に出版した「子供靴はこんなに怖い」(宙出版刊)では、靴が子どもの足の健全な成長に大きな役割を果たすことを、初めて体系立てた形で世に知らしめた。現在は、フリーランスで海外を含め取材活動を行い、靴やアパレルの専門紙誌に執筆。講演活動も行っている。著書は、他に「百靴事典」(シューフィル刊)がある。